嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
部屋に入ってきて、私のスタイルを頭のてっぺんから爪先まで品評するような間があってから、薫さんはにこやかに言った。


「うん、綺麗だ。思った通り」


深く頷きながら噛み締めるように言われると、変な言い方だけどまるで裸を見られてるように恥ずかしくなってくる。


「プ、プロの方にやってもらったので……!」


私が照れ隠しで早口で言うと、薫さんは鼻に皺をクシャッと寄せて少年みたいに笑った。


「そんなに謙遜しなくても。そのドレスもすごく似合ってる。一華の好きな花の色に似てるよ」


好きな花……?
ピンクのかすみ草か、と合点がいったとき、私を甘やかすような薫さんの眼差しに胸がキュンとした。


「か、薫さんも素敵です!」


とっさに出た私の大声に、薫さんは目を丸くした。

本当はこの部屋に入ってきたときから、私のドレスや緊張なんてもう二の次でいいってくらい、息を飲む思いだったんだ。

黒のスリーピースのスーツ、ピンホール付きのワイシャツに、光沢のあるネクタイ。
スーツ姿は見慣れているけれど、なんだか今日はモノトーンで統一されたスタイルがファッション雑誌の一ページから抜け出して来たかのように見えて、この高級ホテルというロケーションに最も相応しい人物だと思った。


「社長、今夜のお部屋はどうされますか?」


私たちのやり取りを、無表情で見守っていた長瀬さんが口を開く。

今夜のお部屋、って……私たちの、だよね?


「スイートルームを押さえておくよう、コンシェルジュにお伝えしましょうか」
「余計な気は回すな」
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