嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「弟の婚約者なんだ。家族になるんだから、大事にしないと」


芳樹社長は偽りっぽい寛大な笑顔で私を見つめた。


「へえ、この方が薫社長の……」


芳樹社長の腕を離した女性はまるで値踏みするような目で私をジロジロと不躾に見たかと思ったら、すぐに一礼して去っていった。

居心地が悪く、もじもじと肩をすぼめていると。


「大丈夫、一華ちゃん全然見劣りしてないよ。薫と並んでるとこ見たけど、美男美女って感じだったし」


にっこりと人懐こい表情で芳樹社長が言う。
私が落ち込まないようにフォローしてくれた……?


「お、お上手ですね。お世辞でも嬉しいです」


でも、正直気を遣われると余計に虚しい気分になる。
ただの総務部員だった私がいくら着飾っても、本物のモデルさんに敵うはずなんてないもの。


「お世辞じゃないって。だってあの薫が……」


と、芳樹社長が言いかけたときだった。

恰幅の良い体型をゆするようにしてこちらに歩み寄って来る人物が、周囲に轟くくらいの大声で言った。


「芳樹社長! こないだはどうもありがとうございました!」


その声と、一瞥しただけで正体がわかった私は、ものすごい瞬発力で背を向ける。
コソコソと距離を取る私を、芳樹社長が不思議そうに見ている。


「木塚所長、こちらこそどうも、いつもお世話になっております」
「いやあ、せっかく薫社長との面会の席を用意してくださったのに、すみませんでした」
「とんでもない、こちらこそ弟がご無礼を」


チラリと肩越しに振り向いてみると、涼しげな表情でシャンパングラスを傾ける芳樹社長と会話をしているのは紛れもなくあの日、香山に来たセクハラ木塚所長だ。
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