きつねさんといっしょ!
「この人、九尾の末裔でね。結構偉い人なんだよ」
大家さんの説明が私の疑問に答えてくれる。
ありがたい。
「九尾の一族も竜と同じくらい特別だからな」
「あと天狗の一族もいるけど。それぞれの姓をもじって『大極宮(たいきょくぐう)』とか呼ぶ人もいるね」
「そうなんですか。えっと、美幸ちゃんの姓は……?」
「ちゃん?」
美幸ちゃんの眉尻が上がる。
「ずいぶんなれなれしいわね。宮部(みやべ)の家にケンカでも売ってるのかしら?」
一瞬、美幸ちゃんの目が妖しく赤く光る。
ビリッと空気にスパークするかのような威圧感。
てか、彼女の左手が青白く光ったのは目の錯覚だろうか。
……あ、何かかなりヤバそう。
私は慌てて言い直した。
「美幸……さん?」
「さん、ね。まあいいわ、あたしって心の広い大人の女だし」
「いや、見た目のまんま子供だから」
きーさんがつっこむ。
「ひどっ!」
「美幸様、これっぽちも説得力がありません」
アリマサさんもつっこむ。
「ひどっ!」
「飯塚さん、この人偉い人だけどそんなに怖くないから普通に接してもいいよ」
大家さんの言葉にも美幸ちゃんが反応する。
「ひどっ! 夏彦のくせにひどっ!」
「うん。近づいたらダメだけど……ただの危ない人?」
「ひどっ! 下級の妖怪にまでっ! あたし、泣きそうっ!」
「「「「それはやめて!」」」」
うわっ。
私と美幸ちゃん以外の全員の声がハモった!
けど、どうしてそんなに彼女が泣くのを防ごうとするの?
これに答えてくれたのも大家さんだった。
「この人の泣き声って超音波兵器が裸足で逃げだすレベルの破壊力があるんだよ」
「人を化け物みたいに言わないで」
「いや、化け物だし」
すかさずきーさんがつっこむ。
ああ、いらんことを……。
「……」
美幸ちゃんが一気に表情を曇らせる。
ひっく。
あ、べそかいてる。
ひっく。
ひっく。
ヤバイ。
美幸ちゃんが泣いちゃう。
ひっく。
ひっく。
美幸ちゃんがこぼれ始めた涙を手で拭う。白い肌に朱が染まる。小刻みに揺れる身体はかろうじて感情を抑えようとしているふうにも思える。
ひっく。
ひっく。
ぐすっ。
不意に美幸ちゃんが誰かの身体に包まれた。
ミトさんだ。
前から美幸ちゃんを抱き締めている。スーパーのレジ袋といえば、さっきまで彼女がいた位置に落ちている。
「うん。泣かない泣かない」
これは……。
ミトさんの癒しの力でアパートの危機を回避できるかも。
私だけでなくこの場の全員の思いは重なったはずだ。
私は成り行きを見守った。
ひっく。
ぐすっ。
ひっく。
ぐすっ。
ミトさんの身体に隠れて美幸ちゃんの様子は見えない。でも、傷ついた彼女の心が癒やされることを期待するしかない。
ミトさんが優しい声で語りかける。
「うん。大丈夫大丈夫……」
ひっく。
ぐすっ。
ひっく。
ぐ……。
あ、泣かずに……。
「いい加減にぐずるのをやめろ。ああ、めんどくさいお子様だな!」
きーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
たぶん、また思いは重なったはず。
というか総つっこみ必至。
「……」
数秒の沈黙。
何かを察したらしく、ミトさんが今までで一番の素早さで美幸ちゃんから離れた。
え?
緊急避難??
エマージェンシー!
エマージェンシー
エマージェンシー
気づくと私を除いて全員がこの場を離脱している。
私はつぶやいた。
「ひどっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
突然、大音量の鳴き声が私を直撃した……。
★★★
「うーん」
部屋のガラステーブルに突っ伏した姿勢で私は目を覚ました。
ぼんやりとした意識で目の前にある週刊誌を眺める。「結婚三周年。離婚の危機と回避方法」と大きな見出しがついていた。
私は黒髪のおかっぱ頭を軽く振り、深くため息をつく。
そうだ……。
きーさんがミトさんの買い物に付き合って出たから、私一人でお留守番をしていたんだっけ。
記憶の中にうっすらと亜麻色の縦ロールの女の子がいた。美幸ちゃんだ。それにもう一人……そう、アリマサさん。
恐るべき彼女の能力。
でも……。
私は安心して頬を緩める。
「夢でよかったぁ」
にまにましていると誰かが呼び鈴を鳴らした。
ピンポーン。
ピンポーン。
「あ、はーい」
思わず返事をしてしまった自分のうかつさに自嘲する。
やばい人が来てたらますいのに。
玄関に向かい、覗き窓で来訪者の姿を確認する。
そこにいたのは宅配業者の格好こそしていないけれど、紛れもなく夢で会ったアリマサさん。ダークグレイのスーツに白いワイシャツ、紺色のネクタイを身につけている。
その隣にいるのは……。
「このドロボウ猫、さっさと出てきなさい!」
亜麻色の縦ロール!
大家さんの説明が私の疑問に答えてくれる。
ありがたい。
「九尾の一族も竜と同じくらい特別だからな」
「あと天狗の一族もいるけど。それぞれの姓をもじって『大極宮(たいきょくぐう)』とか呼ぶ人もいるね」
「そうなんですか。えっと、美幸ちゃんの姓は……?」
「ちゃん?」
美幸ちゃんの眉尻が上がる。
「ずいぶんなれなれしいわね。宮部(みやべ)の家にケンカでも売ってるのかしら?」
一瞬、美幸ちゃんの目が妖しく赤く光る。
ビリッと空気にスパークするかのような威圧感。
てか、彼女の左手が青白く光ったのは目の錯覚だろうか。
……あ、何かかなりヤバそう。
私は慌てて言い直した。
「美幸……さん?」
「さん、ね。まあいいわ、あたしって心の広い大人の女だし」
「いや、見た目のまんま子供だから」
きーさんがつっこむ。
「ひどっ!」
「美幸様、これっぽちも説得力がありません」
アリマサさんもつっこむ。
「ひどっ!」
「飯塚さん、この人偉い人だけどそんなに怖くないから普通に接してもいいよ」
大家さんの言葉にも美幸ちゃんが反応する。
「ひどっ! 夏彦のくせにひどっ!」
「うん。近づいたらダメだけど……ただの危ない人?」
「ひどっ! 下級の妖怪にまでっ! あたし、泣きそうっ!」
「「「「それはやめて!」」」」
うわっ。
私と美幸ちゃん以外の全員の声がハモった!
けど、どうしてそんなに彼女が泣くのを防ごうとするの?
これに答えてくれたのも大家さんだった。
「この人の泣き声って超音波兵器が裸足で逃げだすレベルの破壊力があるんだよ」
「人を化け物みたいに言わないで」
「いや、化け物だし」
すかさずきーさんがつっこむ。
ああ、いらんことを……。
「……」
美幸ちゃんが一気に表情を曇らせる。
ひっく。
あ、べそかいてる。
ひっく。
ひっく。
ヤバイ。
美幸ちゃんが泣いちゃう。
ひっく。
ひっく。
美幸ちゃんがこぼれ始めた涙を手で拭う。白い肌に朱が染まる。小刻みに揺れる身体はかろうじて感情を抑えようとしているふうにも思える。
ひっく。
ひっく。
ぐすっ。
不意に美幸ちゃんが誰かの身体に包まれた。
ミトさんだ。
前から美幸ちゃんを抱き締めている。スーパーのレジ袋といえば、さっきまで彼女がいた位置に落ちている。
「うん。泣かない泣かない」
これは……。
ミトさんの癒しの力でアパートの危機を回避できるかも。
私だけでなくこの場の全員の思いは重なったはずだ。
私は成り行きを見守った。
ひっく。
ぐすっ。
ひっく。
ぐすっ。
ミトさんの身体に隠れて美幸ちゃんの様子は見えない。でも、傷ついた彼女の心が癒やされることを期待するしかない。
ミトさんが優しい声で語りかける。
「うん。大丈夫大丈夫……」
ひっく。
ぐすっ。
ひっく。
ぐ……。
あ、泣かずに……。
「いい加減にぐずるのをやめろ。ああ、めんどくさいお子様だな!」
きーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
たぶん、また思いは重なったはず。
というか総つっこみ必至。
「……」
数秒の沈黙。
何かを察したらしく、ミトさんが今までで一番の素早さで美幸ちゃんから離れた。
え?
緊急避難??
エマージェンシー!
エマージェンシー
エマージェンシー
気づくと私を除いて全員がこの場を離脱している。
私はつぶやいた。
「ひどっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
突然、大音量の鳴き声が私を直撃した……。
★★★
「うーん」
部屋のガラステーブルに突っ伏した姿勢で私は目を覚ました。
ぼんやりとした意識で目の前にある週刊誌を眺める。「結婚三周年。離婚の危機と回避方法」と大きな見出しがついていた。
私は黒髪のおかっぱ頭を軽く振り、深くため息をつく。
そうだ……。
きーさんがミトさんの買い物に付き合って出たから、私一人でお留守番をしていたんだっけ。
記憶の中にうっすらと亜麻色の縦ロールの女の子がいた。美幸ちゃんだ。それにもう一人……そう、アリマサさん。
恐るべき彼女の能力。
でも……。
私は安心して頬を緩める。
「夢でよかったぁ」
にまにましていると誰かが呼び鈴を鳴らした。
ピンポーン。
ピンポーン。
「あ、はーい」
思わず返事をしてしまった自分のうかつさに自嘲する。
やばい人が来てたらますいのに。
玄関に向かい、覗き窓で来訪者の姿を確認する。
そこにいたのは宅配業者の格好こそしていないけれど、紛れもなく夢で会ったアリマサさん。ダークグレイのスーツに白いワイシャツ、紺色のネクタイを身につけている。
その隣にいるのは……。
「このドロボウ猫、さっさと出てきなさい!」
亜麻色の縦ロール!
