若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
家を守るため経済的な理由のために、彼女がそうせざるを得なかったのだとすれば、あまりに可哀そうだ。自分なら決してそんなことはしないのに、とも思い、そう思うことが、心を重くする。

『どこかの王子さまのように、手当たり次第に優しいわけじゃぁない』

真行寺の嘲笑うような顔が浮かび、忌々しさに舌打ちをした。
腹立たしさに眉をひそめ、夕翔はエレベーターの扉に向かって眉をひそめる。

2、3、と移りゆく階数ランプと共に怒りが増すが、ふいに向葵の顔が脳裏に浮かんだ。

それは昨夜、夕食時の向葵の笑顔だった。

彼女は自分が作った夕食をどんな風に食べるのか気になるのだろう。いつも興味深そうに見つめてくる。『美味しい』と言うと、瞳を輝かせてうれしそうに笑い、『よかった』とホッとしたように少し照れて赤くなる。

可愛い笑顔だ。
その可愛い笑顔が、二十歳の柊子と重なり合う。
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