若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
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「わかりました」
矢神の来訪をつげる電話を切ると、羽原佳織は訝しげに眉をひそめた。
――今日は一体何の用かしら?
通常業務なら佳織から月井のオフィスへ出向く。
矢神からわざわざこの事務所に訪ねてくる用事は決まっている。それは、花森、もとい月井向葵に関すること。佳織が彼女に会った後に彼は来て、様子を聞いていく。
でも今日は彼女と会う約束はない。
夏休みが終わった彼女は、今日から普通の大学生に戻っている。
前回会った時、彼女はマンションを出て元の生活に戻ると言っていたので、次に会うのは一週間後ではなく、十月になってからと約束した。日にちはまだ決めていない。
ということで、矢神が佳織に会いに来る理由がいまひとつ想像できない。
「失礼します」
矢神は会議室の窓辺に立っていた。
そういえば以前、その窓辺から矢神に見られていたことを思い出した佳織は、まっすぐ窓辺に向って歩き、矢神の隣に立った。
坊主憎けりゃ袈裟までなんとやらというが、自称向葵の姉である佳織としては憎まれ口を聞きたくなってしまう。