若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)

「ため息をついている、疲れた女性でも見えますか？」

振り返った矢神はクスッと笑う。
「記憶力がいいですね」

大事な妹を泣かせる奴という許しがたい気持ちが、つい眉に出てピクリと動く。

「はい。一生忘れないと思います」

今度は声をあげて、矢神はアハハと笑った。

「羽原さん、お忙しいとは思いますが、これから食事でもいかがですか？　打ち合わせがてら」

打ち合わせがてらと言われては、断りようがない。

「わかりました」
口を尖らせて渋々了解した。

「出かける準備をしてきます」



矢神は通りに出て立っていた。
会社の車ではなくタクシーで来ていたらしい。彼は佳織にタクシーに乗るよう促して、自分も後から乗る。

「今日は珍しくいい報告ができますよ」

「あら、それは珍しい」

「月井が言っていました。『向葵とちゃんとした夫婦になろうと思う』と」