若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
「向葵、着いたよ」
声を掛けられるまで、まったく気づかなかった。

「うーん……」
寝ぼけ眼で寝返りを打つと、再び声を掛けられた。

「向葵?」

呼びかけてくる声は、優しくて甘く耳に響く。
夢の中でも王子さまの声は優しいんだ。そう思いながら薄っすらと開けた目に映ったのは、やはり王子さま。

彼は「着いたよ」と、向葵の額にかかる髪をなでる。
その指先が額から離れた時、ようやく目が覚めた。

「あっ!」
慌てて起きあがると、クスクスと夕翔が笑った。

フランスの夏は日が長い。
時間はもう夜だというのに、外は昼間のように明るい。

着いたシャトーはお城ではなくて、大きな農園を伴った歴史ある外観をした邸だった。まるでホテルのように、母屋の他にいくつもの屋敷がある。
外観は中世でも、屋敷の中は雰囲気を損なわない程度に住みやすくリフォームされている。向葵は母屋の中のひとつの部屋に案内された。

部屋の隅には、先に届いていたらしいウエディングドレスが、トルソーに飾ってあった。

「うわ、素敵」

明日これを着るのかと思うと途端に胸が踊ったが、ふと気づいた。
この感動を一緒に喜んでくれる人はいない。
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