愛さずにはいられない
「あの時はさ、こんな未来を想像してなかった。でも、今だからこそ思うんだ。あの時絃は、奈央を幸せにするのはほかの誰でもなく、俺か絃がいいって。」


『なぁ、兄貴。俺さ、奈央を幸せにするのは俺か兄貴かどっちかがいい。だから、奈央がどっちを選んだとしても俺はいいんだ。きっと悔しいだろうけどさ。ほかの知らないやつには奈央を任せていられない。あんなに大切な奈央を任せたくはないんだ。』
絃の部屋で、絃はその時作曲をしていた。
ギターを片手に部屋のドアの前で立っている仁に話す絃。仁は腕を組みながら話を聞いていた。
ちらりと見える譜面には『愛さずにはいられない』という文字が見える。
『なら、今すぐにでもお前の気持ちを奈央に言えばいいだろう』
仁が自分の気持ちを隠しながら絃に言うと絃は仁の手を止めてじっと仁を見た。
『言わないよ。今は言わない。今じゃないんだきっと。』
『そんなことしてるうちに誰かに取られるぞ?』
『兄貴だったらいいよ、俺。』
『何言ってんだよ。』
仁がごまかそうと絃から目をそらしても絃は仁をじっと見ている。
『冗談なんかじゃないんだ。俺は何よりも奈央が大切で、だからこそ、奈央が幸せになるってわかっているならたとえ相手が兄貴だっていいんだ。自分以外の誰かの幸せを願うってこういうことなんだろうな。でもさ、俺でも兄貴でもないやつが奈央を幸せにできるとは思えないんだよ。なんでかさ。』
< 174 / 297 >

この作品をシェア

pagetop