愛さずにはいられない
仁は結婚式の朝、ひとり絃のお墓に来ていた。
線香をあげて手をあわせる。

「なぁ、絃。俺、奈央を幸せにする。絶対に幸せにするから。お前ができなかった分も。お前以上に大切にする。だから、安心してみていてほしいんだ。それで俺に奈央を任せても大丈夫って思ったらさ・・・・その時は・・・」

仁の気持ちに絃を失った時の大きな悲しみが蘇る。

あの時・・・大声を出して泣いたりはしなかった。
できなかった。

見えない涙を流す奈央が心配で。
泣き崩れて悲しみから抜け出せない両親を見て。

泣けなかった。
泣いている場合じゃないと思った。

こらえた涙の分だけ仁は前に進んだ。
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