バッドジンクス×シュガーラバー
「……小糸さん。この男の下で働くのは、大変でしょう?」

「え?」



唐突な稔のセリフに、小糸がきょとんと目をまたたかせた。

俺が口を挟む間もなく、言葉は続く。



「良く言えば行動力があるともいえるが、強引で配慮に欠ける。それに、己の都合ばかりを優先して周りを顧みない、薄情な人間だ」

「ちょっと、稔」



淡々と言い放った稔を、隣の菜乃花が咎めるように呼んだ。

返す言葉を持たない俺は、ただ黙って眼前の弟を見つめる。



「……そんなこと、ないですよ」



8畳ほどの室内をピリついた空気が包む中、次に声を上げたのは──意外にも、それまで一切の主張を見せなかった小糸憂依だった。



「私は、久浦部長のことを薄情な人だとは思いません。いつも私たち部下を気にかけて助けてくれる、頼もしい上司です」



驚くほどハッキリとした口調で、彼女は言う。

まっすぐに稔を見据えて話す小糸の横顔を、俺は呆気に取られながら斜め上から見下ろしていた。



「それに、下についてる人だけじゃなくて……上司にあたる人たちも、久浦部長のことはとても信頼して仕事を任せていると思います。だからいつも久浦部長はすごく忙しそうで、疲れてるんじゃないかなあと少し心配にもなるんですけど」
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