バッドジンクス×シュガーラバー
「……おまえさ」



耳に届いた声に、ほんの少し顔を上げた。

久浦部長がテーブルに左手で頬杖をつきながら、真顔でじっと私のことを見つめている。



「おまえさ、余計なお世話かもしれないが、メガネやめてコンタクトにしたらどうだ? ただでさえその長い前髪で顔見づらいのに、余計野暮ったく見えるぞ」



……いつものことながら、久浦部長は辛辣で歯に衣着せぬ言い方をする。

しかもなぜに、突然私のメガネの話??

それでも私だって、ここで「ハイそうですね」なんてうなずくつもりはない。

小さく深呼吸をしてから、答える。



「いいんです、これで」



言いながら、部長の視線をはねつけるようにメガネのズレを直した。

野暮ったく見えるなら、それでいい。

少なくとも、男性が自分の視界に入れたところでこれっぽっちも興味が湧かないような外見であれば。

──そうやってずっと、これまで生きてきたのだ。


久浦部長は私の返事に、また「ふぅん」とつぶやいただけだった。

どうやら部長本人も、そこまで本気で私に関わり合おうとしているわけではないらしい。
ただなんとなく、思いついたことを口にしただけだったのだろう。

頭の中でそう結論付けて、私は冷めかけた紅茶を飲み込んだ。


その後もぽつぽつと味の感想を話したりメモをとったりしながら、私たちはテーブルに並んだケーキをすべて完食することに成功した。

最初はどうなることかと思ったけれど、半分ずつなら途中で飽きることもなくて意外とイケるんだなあ。……まあしばらくは、ケーキ屋さんに来なくてもいいかなって思えるけど。



「どうせ経費で落とすから。小糸が気にすることは何もない」



さっさとレシートを持って席を立った部長に支払いはいくらなのかと慌てて訊ねたら、一瞥とともにあっさりそう言われてしまった。

経費……なら、気にしなくて大丈夫なのか。でも一旦は、久浦部長の財布からお金が出るわけで……。
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