バッドジンクス×シュガーラバー
「え。ど、どうかしました?」

「いや……小糸って、実は意外としゃべるヤツだよなーと思って」



笑いまじりにそんなことを言われ、ハッとした。

私の様子に気づくことなく、前を向いて運転する久浦部長はさらに続ける。



「まあそれは、普段は女相手限定か。けど男相手にも、いつもそうやって顔上げてしゃべってれば──」



部長が話しているというのに、うまく耳に入って来ない。

私はうつむいて、ひざの上の両手をぎゅっと握りしめた。


……馬鹿だ。私、大馬鹿。

いくら仕事で一緒に外出しているといっても、ここまで積極的におしゃべりする必要はなかった。

こんな、ふうに……久浦部長に、気を許すつもりなんて──。



「……小糸? どうした?」



突然押し黙った私を不審に思ったのか、怪訝そうに訊ねられる。

窓の外に目を向けて、小さく首を横に振った。



「いえ……なんでも、ないです」

「……そうか?」

「はい」



それきり会話は途切れ、私は心底安堵する。

大丈夫かな。会社を出てから一緒にいたここまでの時間で、この人に“あのジンクス”が当てはまることにならなきゃいいんだけど……。

考えれば考えるほど不安になって、私の顔は自然とうつむいてしまう。


もう過ちは繰り返したくない。もう、誰かを傷つけたくない。

周りのため、自分のため。だから私には、こうして閉ざされた世界の中で息をひそめて生きていくのが1番いい。

……こうしなければ、いけないんだ。
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