バッドジンクス×シュガーラバー

『広報室にね、スイーツグループの戦力になってくれそうなコがいるんだよ。春からこっちに引き入れられないか今あちらの室長に交渉中だから、きみも楽しみにしているといい』



コズミック・マインド本社の商品本部を統括する植田本部長が楽しげな様子で俺にそんな話をしてきたのは、２月中旬のことだ。

本部長によれば、その社員は社内向け広報誌で【スイーツ巡り旅】という小さなコーナーを担当している社員らしい。

話を聞いて、なるほどと思った。毎回様々な店やメーカーの和洋菓子を紹介するあのコーナーは、俺も必ず目を通すほど気に入っている。

業務内容に関係しているのはもちろん、俺自身もともと甘い物は好きだったし、さらには文面にもなかなかどうして絶妙なユーモアがあって読むのが楽しかった。

たしかに、あの着眼点は商品開発の場で役に立つかもしれない。
しかし植田本部長、まさかそんなところから人材を発掘しようとは……抜け目ないというかくちばしが長いという、なんというか。

苗字が『小糸』で、入社３年目の若い女性社員だということ以外、顔も声も下の名前も知らない。

新年度から迎えることになるかもしれない新しい仲間との出会いを、俺はひそかに楽しみにしていた。