基準値きみのキングダム
その何か、が人間だって、遅れて気づく。
鼻先にしっかりした胸板が、ふれて。
「ごめっ、奈央……」
じゃない。
奈央、じゃない?
じゃあ……今、私を支えてくれているのは。
「はは、ナイスキャッチ。褒めてよ」
至近距離の声に、体がカチッと固まった。
「杏奈」
「……!」
答え合わせするかのように、名前を呼ばれて。
信じられない気持ちで顔を上げる。
深見くん、だ。
深見くんが見える。
……思ったより私は重症なのかも。
「どうしよう、幻覚が見える……」
「それ、俺のこと言ってる?」
「……幻聴」
「じゃねえよ。現実だから、安心して」