基準値きみのキングダム
そんなわけないのは近衛くんだってわかっているはずだ。
からかわれているだけだとわかっているのに、私は毎度、受け流せずにまともに食らってしまう。
「違う! バイトなの! バイトさせてもらってるだけ……!」
「バイト?」
「そう……」
春、出会いと別れの季節。
私たちは今月のはじめに、3年間通った高校を卒業した。
ようやく無事に、と言うべきか、早いものでもう、と言うべきなのか。
もう制服を着ることはないんだと思うと、急に大人の世界に放り出されたみたいで、ほんのり寂しさと心細さがあるのは否めない。
とはいえ、あと数週間もすれば、新生活が幕を開けるのだから、いつまでも高校生気分じゃいられない。
進路はなんとか無事に決まった。
3月の頭に合格通知をもらって、私は家から電車で通える距離にある公立大学────第1志望校に通えることに。
恭介は後期試験まで粘っていて、つい一昨日がその結果発表の日だった。
結果は、合格。
すごく遠いわけじゃないけれど、ここから毎日通うには無理のある距離にある大学ということで、家から離れてひとり暮らしを始めるんだって。
合格が決まったその日に、住む場所も契約したって言っていた。