基準値きみのキングダム
ともかく、お互いに、新しい学校への切符を手にして。
入学までの数週間、どうしようかという話の流れで「バイト、してみたいなぁ」とこぼしたら。
「春休みの間、俺んとこ働きに来る?」って、恭介が。
そんな厚意に甘えるわけには、と断ろうとしたけれど、
「今、うち働き手足りなくて困ってんだよな」
「時給も悪くないと思うし」
「……てか、ぶっちゃけ、杏奈が働きに来てくれたら、バイトしてても会えんじゃん」
と重ねられて、あっさり陥落した。
できるだけたくさん、いっぱい、会いたいのは私もおんなじだったから。
だって、勉強、勉強、勉強の日々で、この冬の間は学校以外の場所で、ほとんど会えなかったんだもん。
そんなわけで、ここ、深寿庵で数日前から働かせてもらっているの。
主な仕事内容は、レジ打ちに品出しに、訪れたお客さんに商品の説明をすること。
お仕事のことは、ほとんど、恭介が手取り足取り教えてくれた。
高校生の間はバイト禁止だったから、これが正真正銘、はじめてのお仕事。
はじめてだらけ、慣れないことばかり。
特にレジの機械の扱い方が難しくて、初日はずっと焦っていたけれど、その都度、恭介が助けてくれた。
甘えきっているなと自覚はあるけれど、はじめてのバイト先が恭介のところでよかったって思う。安心感が段違いだ。