基準値きみのキングダム
頼んだお豆腐とがんもとは別に、紙袋を手渡される。
「豆腐ドーナツ。よかったら家族みんなで食べてよ」
ほんのり甘くてけっこう美味いよ、って深見くんは言うけれど。
「いっ、いいよ、そんなの。もらえない!」
慌てて首を横に振って突き返す。
だけど、深見くんは軽く受け流して。
「迷惑じゃないなら、受け取って。口止め料も兼ねてるから」
「……っ」
迷惑なわけない。
深見くんは私の頑なな部分を簡単に溶かしてしまう。
受け取った紙袋にはドーナツが5つ入っていた。
ママの分もある……。
「ありがとう」
素直に口からすんなり出てくる。
初めはままならなかった「ありがとう」は、深見くんと話す機会が増えるにつれて、緊張せずに言えるようになった。
「ふは、こちらこそ。お買い上げありがとうございます、お客様」