売れ残りですが結婚してください
「ただいま」

「おかえり……あらっ。何かいいことでもあった?」

母の冴子は翠の顔を見ただけで何かあったとすぐに気づく。

大事そうに本を抱えているところを見るとお目当ての本があったのだろうと察した。

「うん、今度光琳の展示会に行くことになったんだ〜」

本じゃなかったことに冴子は「え?」と驚いた。

今までもこういうことはあったが、昨日許嫁がいることを話したこともあり気になっていた。

ところが当の翠は気にしていないのか、それとも開き直ったのか我が子ながらよくわからないと思う母だった。

「光琳ね〜」

母の目には結婚よりも光琳の方が大事なのかとため息が出てしまう。

もう少し意識してほしいと思いながらも好きでもない相手との結婚をする翠に気を使って何も言えなくなった。

「着替えてくるね」

翠は母の不安をよそに自分の部屋へと向かった。

すると冴子のスマホに電話がかかってきた。

翠の姉の唯からだった。
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