売れ残りですが結婚してください
「一度も会ったことのない人と結婚するんです」

シュウは驚きを隠せなかった。

「一度も会ったこともない人と結婚して翠は幸せになれるの?」

「それは……わかりません。でも夢を叶えたいんです。おおばあちゃんの夢を……それを叶えられるのは私しかいないんです。だから私はその人と結婚するんです」

シュウは翠の意思の強さを感じた。

だがどうしても納得ができない。

いくらおおばあさんの夢とはいえ、犠牲を払ってまで結婚すべきことなのか?

それが翠の幸せに繋がるのか?

「翠は今まで誰かを本気で好きになったことはある?」

「ないです」

キッパリと答える翠にシュウは驚いた。

「じゃあさ、翠は恋をしてみたいと思ったことはないの?」

「恋……ですか?」

翠は今まで誰かを好きになったことがない。

小学校は共学だったが超がつく真面目さで男子から話しかけられることも少なく、男子はうるさいという印象しかなかった。

中高は女子校だったため男といえば教師ぐらい。

大学は共学だったが、男を寄せ付けないオーラを出していた翠に合コンなどの誘いはなかった。

そんな真面目な人生を送ってきた翠に「恋」など無縁だった。

だからシュウに恋をしてみたいかと聞かれて戸惑った。
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