求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
「さっすが中野さん! 無駄に年くってないっすね!」

調子いいことを言う後輩の頭をペンでカツンッと小突いてやる。言い過ぎだ、コラ!


今日は朝からそのようにバタバタしてしたが、山瀬君が修正したファイルを印刷所に送り、昼前に事態は収まった。

なんとかなって、良かったぁ。

山田さんにデザインの変更が間に合った旨を報告してから、デスクを離れる。

ほぼ毎日通う社員食堂は、抜群の見晴らしの最上階だ。
今日も迷わずエレベーターで直行し、一番値が張るステーキセットを頼んだ。

こういう時に贅沢をしないで、いつするんだって感じだしね……。

他部署の課長に「いいもん食ってるなぁ」と冷やかされつつ、ペロッと平らげる。

昼休みが終わろうとする頃、社食を出てエレベーターホールに向うと、高木さんが廊下の隅で電話をしていた。

彼は私を見るなり、「悪い。また後で」と電話を切った。そして……。

「港家電の件、本当にごめん」

深々と頭を下げられ、思わず息をのむ。
高木さんに謝られるのは、初めてだ。
引き継ぎをした時でさえ、頼むという言葉すらなかったから。

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