求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
高木さんが言い淀むと、山瀬君の近くにいた坪井係長が口を挟む。

「仕事中の私用電話も、よろしくないですね」

彼女は事務を取りまとめる立場だ。
ミスが多い高木さんのフォローに追われ、彼女の不満もたまっているんだろう。

堪りにたまった鬱憤をぶつけるよう、彼女は高木さんをきつく睨む。

ちょっと、止めてよ……。

対峙する三人にそう言い掛けた時、不意に押し黙っていた高木さんが声を張った。

「分かったよ! 辞めればいいんだろっ、辞めてやるよ!」

悲鳴にも似た声がフロアに響き、シンッと場が静まり返る。

ヤバいっ……。

高木さんは顔を紅潮させ、目には決意を滲ませている。
最近になってミスが目立つが、根が真面目な人だ。そして多分、一度口にしたことは引かない性格だろう。

このままじゃ、本当に辞めちゃうっ……。

どうしよう、と天を仰ぎかけたその時。

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