求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
背後で靴音がし、スッと私の横を誰かが通り過ぎた。それが上原課長だと分かるのと同時に、視界がぼやける。
安堵の息をつくのと同時に、泣きそうになった。

廊下から現れた彼のところまで、三人の声は聞こえていたんだろう。

上原課長は言い合いをした三人をじっと見据え、抑揚のない声で言う。

「ここはお前達だけの職場じゃない。場所を変えるぞ」

上原課長に目で促され、俯きがちな三人が廊下に出る。

すぐそこの会議室に行くんだろう。フロアから彼等が消えると、今年入社したての新人社員が口々に話し出した。

「あぁー、びっくりしたぁ」

「どうなるかと思ったね」

「上原課長が来なかったら、ヤバかったな」

まったく、その通りだ。
上原課長が来なかったら、高木さんは会社を飛び出していたかもしれない。

室内はクーラーがガンガンきいているのに、汗が背を伝い落ちる感じすらしてしまう。

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