求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
「坪井係長。ダメですよ」

窘めるも、彼女は首をふるふると横に振る。

「このまま高木さんが辞めたら、気分が悪いです」

「気持ちは分かりますけど……」

「俺だって嫌だよ!」

「コラッ、山瀬君も止めなさい!」

山瀬君も坪井係長の真似をし出し、ふたりをなんとかドアから引き離そうとする。が、意志の固い大人を動かすのは困難だ。

早々に諦めて、私もドアに耳を当てた。気になるものは仕方なし!
三人で固唾をのみ、聞き耳を立てる。

ややして、ボソボソした話し声がした。最初に聞こえた声は、上原課長だ。


「昨日、大学病院にいたらしいけど、どうかしたのか?」

大樹(たいき)が……」

「大樹君ってお子さんだよな?」

「はい……」

上原課長が問うと、高木さんが力なく答える。

ぽつぽつと語り出した高木さんの話は、想像よりずっと深刻なものだった。

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