求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
会社を出たのは、定時を過ぎた午後七時だった。

今日は久々に実家に泊まってもいいかな……。

会社から実家までは電車を乗り継いで一時間ほど。八時を少し過ぎたところで、玄関のチャイムを鳴らす。しかし誰も出て来ない。

家の明かりは点いているから、中には誰かがいるはず。再度、チャイムを鳴らしたら母が不機嫌そうな面持ちでドアを開けた。

「もうっ、タイミングが悪いわねぇ」

「えっ、なんで?」

「いま、ヒロ君が歌ってるのよ!」

ヒロ君とは、母がはまっている五人組アイドルグループのメンバーのこと。

端正な顔立ちの彼はグループのメインボーカルを担当していて、母と奈々さんのお気に入りなのだ。そのヒロ君がテレビに出ているんだろう。

一度のチャイムで来てくれなかったのは、そのせいか。

「そっか。ごめんごめん」
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