求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
遠泳をしたばかりのように身体がぐったりと重い。足を引きずるようにし、紙袋と一緒に部屋を後にした。



一時間後。私は上原家のマンションを訪ねていた。

実家を早々に出た後、ひとり暮らしのアパートに帰ろうと思った。
でも美味しそうなケーキ屋を見つけ、凜ちゃんの顔が脳裏を過ったのだ。

九時過ぎに上原家に着いたのだが、凜ちゃんはついさっき寝てしまったという。
来るのが少し遅かったようだ。


「せっかく来てくれたのに、ごめん」

玄関先で上原課長にすまなそうに言われ、ふるふると顔を横に振る。

「このケーキは明日食べてください。じゃぁこれで……」

「今から食べるよ。中野さんと一緒に」

帰ります、と喉元まで出掛けたが、明瞭な声に上書きされてしまう。

「えっ、でも……」

「あがって」

いつになく強引な彼に促されるまま、出されたスリッパに足を滑らせてお邪魔する。


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