求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
『好きだよ。会いたい……』

新しい彼女へ送るはずのメールを間違えたんだろう。

誤送信を親切に教えてやる仏心はない。返信はせず受信したメールをすぐに削除した。

彼のことはとっくに吹っ切れている。
でもどうでもいい内容ならともかく、愛を囁く言葉だ。

どうしたって別れた時の感情を想起してしまう。

高木さん、母、夏輝。

三人の顔が疲れ果てた脳裏に浮かぶ度、心が重くなりお風呂から出られなかった。

それでもなんとか髪と身体を洗い終える。それから脱衣場に戻ると、目のつく所にドライヤーが置いてあった。上原課長が用意出してくれたんだろう。

自然乾燥でいいや。

いつもはドライヤーで軽く乾かすが、今日はそれすらも面倒に感じる。タオルで髪を拭きながらリビングに戻った。


「上原課長。ありがとうございました」

ゆったりとソファに身を預けた彼は、読書をしていたようだ。文庫本にしおりを挟みつつ、彼が立ち上がる。

「中野さん。何か飲む?」

「えっと、それじゃあ牛乳をお願いします」

「了解」
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