求愛一夜~次期社長とふたり暮らししています~
「誰かに頼るって悪いことじゃないよ。必要とされてるって思うと、嬉しくない?」

一旦置いて、上原課長が眼差しをいっそう真剣なものにする。
胸を震わすほどの優しげな声が静寂に溶けていった。


「俺はもっと、中野さんに甘えて欲しい」

伏し目がちに顔を寄せてきた彼が、そっと私の髪に触れる。

鼓動がドクンッと跳ねたのは至極真面目な声音に驚いたのか。いたわるような手つきに身体が反応したのか、どちらとも分からない。

甘えて欲しい……。

貰えた言葉が鼓膜に伝わり、やがて全身こだまする。身体の芯にまで呼び掛けるよう何度も……。
不意に瞼の奥がジンッと熱を持った。

誰かに頼るのは苦手だ。
違う。頼れないわけじゃない。
自分の悩みや苦しみに誰かを巻き込みたくないだけ。


『美優ちゃんは頑張り屋さんだもんね』

初めて言われたのは、いつだったろう。
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