リリカルな恋人たち
「きょ、今日は流されない!」


語気を強めて宣言すると、わたしの頬を両手で包み込んだまま目を瞬かせた。


「仕方ない。じゃ、せめてこれだけ約束して。ほかの男にはついてかないって」


ふう、などとわざとらしく溜め息をつき、相手は飄々と言った。
仕方ないなどと、皆目思ってもいない様子で。


「男は、僕だけにするって」


そうして、恍惚とした目をわたしに浴びせる。

独占を強要する、不自由で支配的なセリフなのに……。
追いやろうとしてもダメ。どしようもなく惹きつけられて止まない。
そんな官能的で甘い響きに変換されて、わたしを捕らえて離さない。


「な……⁉︎ どうしてあなたの言いなりにならなきゃいけないの⁉︎」
「そうやって怒って、困って。僕のことで頭がいっぱいになればいいのにな、って」


感じ入ったように陶酔して言ってのけ、相手はクイッと口角を上げる。
図らずも目を見張るような、とても器用で、魅惑的な笑い方だった。

これって、なんていうの?
精神的ストーカー?
いや、洗脳?


「ね、それより焼きそば食べに行こうよ。お腹すいたよ。食事だけならいいでしょ? いいよね!」
「や、焼きそば? 勝手だなぁ……」


なんかもう、強引なペースにほんとぽかーんて感じで、くったり脱力。
だらしなく開いた口端からは、思わず笑みまで溢れる始末。

カフェのお代、払ってもらったお返しってことで焼きそばに付き合ってあげてもいいかなって思った。
そーゆう、大義名分があってよかったなってね。


「今日はかやく、入れ忘れないでね」



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