リリカルな恋人たち
「僕、すごく心配。変な男にたぶらかされないか」


壁に背中をくっつけて立っていた男が、動転するわたしを見て白々しく悲しそうな瞳をした。


「どの口が言ってんの? 率先して付きまとっといて」
「友ちゃん」


足早に去ろうとすると、あとを追ってくる。
そして手を引いた。
もうこうなってくると、怖いっていうよりうんざり……。

この人は知ってやってるのだろうか。


〝皺の形が変われば、運命変わるかもよ〟


わたしがあのセリフに心底救われたこと、身を焦がすほど心を揺さぶられたことを。

見透かしているのだろうか。


「……ダメ?」


ひと気のない路地裏で、無防備になったわたしの背中に後ろからぎゅっと抱きついた。
クンクンと鼻を効かせるようにして、わたしの首筋に吐息を宿してく。

体温とか声色にこもる色気がひどくって、それだけでお膝から力が抜けてきそうだった。


「……あの、あたってるん、だけ。ど?」


おかしなイントネーションでわたしは言う。さっきから、硬いものが臀部のあたりにあたっている。

身じろぎたくなる。
体の奥まったところで疼いてくる欲望を、どうにか穏便に鎮めたくて。


「本能です」


臆面もなく言った相手は、わたしの耳元をまさぐるように優しく撫でて、顔を向き合わせた。
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