リリカルな恋人たち
「こっ、コイツらバカじゃね? つーかどんだけ童貞言いたいんだよ!」


注意しておきながら、自分が一番大きな声で発言した謙介は、いつになく取り乱した様子で腰を浮かせたり手をわたわた振ったりしている。


「僕、友ちゃんにじゃないと反応しないんだ、昔から。今もずっとだよ? ほかの人はみんな、南瓜に見えるんだ」


そんな劇団員みたいなお袈裟な動きの謙介にはお構いなしに、加瀬くんは穏やかな声で歌うように軽やかに言った。

奇天烈な特殊体質を自慢げに言っちゃってさ、なんかそういうの、際限なくいとおしい。

なんだか……そうね。つきものが落ちたみたいに、胸がすく思いがして、急激に目頭が熱くなった。


「マジ付き合ってらんね……て! オイ! なに泣いてんだよお前まで!」


最初、わたしのことを言ってると思ったのですぐには気づかなかった。


「お前も南瓜に見られてるんだぞ!」


知世がボロボロと大粒の涙を流しまくっていることに。


「それでも構わないっ! うわーん!  感動したー!」
「どこに⁉︎」


絶妙なタイミングで謙介がツッコミを入れる。
泣きすぎてメイクが崩れている気の毒な知世を見て、わたしの涙はぴたりと止まり、つい吹き出した。


「ダメだ僕……友ちゃんにメロメロで心臓が痛い」


わたしの手のひらを胸元に持ってった加瀬くんは、とくんと鼓動を響かせた。

情事のあと、体がくたくたでいい具合に心地よく疲れてて、意外と厚い加瀬くんの胸板に耳をあてて眠るとき、よく聞く安心する音。

弱ったようにすがめる加瀬くんの目の奥に、色気が宿っていて目をそせない。


「なんか……すげーな。友がオンナの顔してるのって、見たことないから戸惑うわ」


眼球をぐりんと一周させた謙介は、心底呆れたように言う。
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