リリカルな恋人たち
気取ってなくて、不思議な雰囲気。
近寄りがたい怖い感じじゃなくて、もっと知りたくなるような魅力があった。

ちょっと抜けてる変なところが、男らしい部分に化ける瞬間が見てみたいな、なんて……。
わたし、相当欲求不満ぽい。

それに、どっかで見たことあるような、既視感からくる安心感みたいなものがあったんだ。
なぜだか邪険にできない感覚。どこか懐かしいような……。

……そいえば、さっき電話かけてきた友人が、ほかの参列者たちと超ハンサムなモデルさんがいるってキャーキャー言ってた。
興味なくて会場内では見向きもしなかったんだけど、もしかしたらこの人のことを指していたのかもしれない。

テレビとかあんまり見ないからわからないんだけど、雑誌とかCMとか? そういうのに出てる人で、ちらっと拝見したことある、とか?

うーん、分からん。
名前聞いてみようかな?


「あの……」
「ごめん、少しだけだから」


耳元のすぐ近くで響いたのは、張り詰めた声だった。苦しそうに、押し殺すような声。


「さっきの会話聞こえたんだけど、具合悪いんだよね。よかったら、少し休んでくといいよ。もしあれだったら、送ってくし」
「え、それ嘘なんだけど。」


わたしはおざなりな調子で言った。
心配してくれてる人に対して大変失礼な物言いだったと思うんだけど、あまりにもなんか、拍子抜けしちゃって。


「え? 嘘?」


そうなの? と、顔を見合わせて、小首を傾げる。

……あー。なんかもう、どういうつもりなのか壊滅的にわからなくなってきた。
ふつうに額面通り、焼きそばだかカップラーメンだか知らないけど一緒に食べるだけのつもりだったのか?


「下に……披露宴と二次会にもう戻らないための、嘘です」


これって……。
深読みすると、ここにいたい、って言ってるように聞こえる?
だとしたら、わたしばっかやる気満々みたいで、超かっこ悪いじゃん……。

とっさに俯く。
急に恥ずかしくなって、頬が熱くなってきたからだ。


「だったら、うん。遠慮なくここにいてよ」
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