マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
湯気を立てた土鍋を突きながら、作ったばかりのおかずを肴に日本酒を頂いた。
土鍋の中身は湯豆腐。あっさりとした湯豆腐と辛口でふくよかな味わいの地酒が体に浸み込んでいく。
“味見”の名目の元、豆皿に少しずつ盛られ常備菜は、まさに“小料理屋”のようだ。
その中から大根の煮物を口にいれる。
「美味しい。でも、あんまり食べたら“作り置かず”になっちゃいますね」
何度目のお替りが半分ほどになったお猪口を置きながら、ほろ酔いの頭の割に良いことを言ったと思う。
「残りはちゃんとしまってある」
「さすが高柳さん、抜かりありませんね」
ふふっと笑いを漏らすと、湯気の向こうの高柳さんがこちらをじっと見つめていた。
「?…どうかしましたか?」
物言いたげな瞳に気が付いて、首を傾げる。
そのままで高柳さんの返事を待っていると、私のスマホが短く音を立てた。
私のスマホが休日に鳴ることは珍しい。交友関係が少ないのでこういう場合は大抵、まどかか佐知子さんからのものだ。
「豆腐の追加を取ってくる。スマホ、遠山夫人からかもしれないぞ」
私に気を遣ってくれた高柳さんは、そう言うと腰を上げた。
「すみません」と断ってからスマホをタップする。映し出された画面を見た瞬間、口から勝手に悲鳴が出た。
「き、きゃあ~~!」
「青水!?」
キッチンから慌てて駆け寄ってきた高柳さんは、口に手を当て両目を潤ませている私を見て目を見張った。