マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
肩で息をしながら足元を見つめる。

(あんな顔も出来るのね……)

酸欠の頭で呆然とそんなことを考えた。

(もしかしたら実家じゃなくて、今日は彼女と過ごしていたのかも……)

そう考えたら何もかもがしっくりと来た。

(なんだ、そういうことか。だから私はただの“同居人”なんだ)

好きな人がいるならその人と結婚すればいいのに、と思う。そしたら“お見合い”なんてする必要もない。

(何か事情があるのかもしれないわね……大丈夫。ちゃんと分かってる)

見なかったことにすればいい。

(私にだって“大人のお付き合い”が出来るんだから)

そう頭の中で思った瞬間、目頭が熱くなり両目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

「や、やだ……なんで……」

拭っても拭っても次々と溢れ出る涙。止めようと思うのに止まらなくて、私は両手で顔を覆った。

(いやよ!)

声に出さずに目一杯叫ぶ。心の中で嵐が吹き荒れていた。

ダメと言われて駄々をこねる幼いこどものような自分。涙は止まるどころかどんどん激しく溢れて出して、溜まった雫が指の隙間から手首に伝っていく。

耐えていた嗚咽が漏れそうになった時、耳に“あの音”が聞こえた。

遠雷だ。
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