マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
スーッと血の気が引いて足が震えだす。

(早く…早く帰らないとっ)

頬を濡らした涙を拭うことなく、慌てて家を目指そうと顔を上げる。するとどこからか誰かに呼ばれたような気がした。

駆け寄ってくる足音。今度ははっきりと聞こえた。

「雪華さん!!」

私が振り向くのと、幾見君が足を止めるのは同時だった。

「――雪華さん……」

幾見君が目を見開いた。青い顔をして涙に濡れている私を見て驚いたのだろう。
ずずっと鼻をすすって頬を拭う。

「どうしたんですか!?」

幾見君は私の両肩に手を置き、前屈みになりながら私の濡れた顔を凝視する。

「あの男と何かあったんですか!?」

喰いつくように私を見る幾見君は必死の形相。
『あの男』という言葉からさっきの高柳さんの笑顔が甦って、一度止まったはずのまた涙がまた溜まり始める。
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