異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミの隣に座る候補が、端に入る背の高い男に向かって言葉を発した。

「ベルガモット様。私のケーキも食べてみてください! 中身にも工夫が凝らしてありますから」

――ベルガモット様? ……あ、王城の料理士さんたちのトップ、ジル・ベルガモット?

ジリン公爵の屋敷で知識として教えられた料理長の名がベルガモットだった。

王城には三つの大きな厨房と五つの調理場があるというが、それぞれの責任者たちをまとめる総責任者が彼なのかと、メグミはじっと見つめる。

薄い茶系の髪は短い。鳶色の瞳をしている。どちらかといえば細身で、目付きは大層鋭い。まだ三十代でも十分料理長をやっていけるだけの実力と妥協しない厳しさがあるという。

彼の作ったどの料理も絶品であり、繊細で美しいデザートまでも作り上げる男。ジリンが、自分が推挙した者に勝った相手だと悔しげに言いながらも、その腕前にはひと言も文句をつけなかった者。

ベルガモットはその候補者を眺めて言った。

「どれほどのケーキでも、ケーキなら私が作れる」

あ……と口を開けたのはメグミだけではなかっただろう。求められていたのは、ベルガモットが作れないお菓子を提供できる者だった。
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