異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
第一厨房の一角を彼女の仕事場所にするとベルガモットが決めた。これも妬まれる要因だったようだ。

かくして、嫌がらせを受ける日々になってしまった。無視は当たり前で、軽いとはいえ邪魔だと小突かれもした。

あるとき、出来上がった菓子を持ったところで後ろから押されてすべてダメにしたことがあった。そのときばかりは、菓子を出すのが遅れたこともあり、コンラートの耳に入ってしまった。国王の執務室へ呼び出されて理由を追及される。

「申し訳ありません。転びました」

「誰かが背中を押したんだろう? 厨房の様子は俺の耳にも届いている。俺が追及してやるぞ。せっかくの菓子をダメにされて怒らずにいられようか」

「私の不注意です」

頑固に同じ返事を繰り返して、最後まで自分の不注意で押し通した。それ以来、苛めにも似た嫌がらせはなりを潜める。

嫌味なのかなんなのか分からない口調でアルマに言われた。

「いくらなんでも黒獣王に睨まれてまで、あなたを苛める者などおりませんよ。良かったですね。守ってくれる人がいて。陛下とは、どこまでの関係なんですか?」

「関係? 国王様と専属菓子職人、かな」

「……にぶっ」

一言だけでは意味が分からず首を傾げたが。どうやらアルマが言いたかったのは『メグミは鈍い』ということらしい。

「よろしいですか。ベルガモット様があなたを優遇しているのではなくて、陛下があなたに手厚くするよう料理長にほのめかしたんですよ。陛下がメグミの菓子をどれだけおいしそうに食べられるか。たまにメグミを見掛けたときの嬉しそうな……。もういいです」

「陛下が嬉しそうなのは、きっと私の顔が菓子に見えるからよ」

アルマはのけ反って再び言い放つ。

「あなたが妬まれるのは、優遇だけじゃないってことがよく分かります。その鈍さがイライラするというか、菓子しか興味がなくて作っているときに声をかけても返事もしないとか――もういいです」

菓子を作っている最中は誰の声も遠のいている。これは治らないのでメグミは困ってしまうが、どうにもならない。

表立っての苛めはほぼなくなったが、料理人や下働きの者たちは、こそこそと彼女の噂をしている。職場を一緒にする他の料理人とは、少しも打ち解けられない。

――友達を作りに来たんじゃないわ。

そう思うしかない。

メグミはため息を吐きながら、ひたすら和菓子を作る。作っている間は集中するので、少しばかりの悪口など耳に入らなかった。
< 139 / 271 >

この作品をシェア

pagetop