異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
サユリはちらりとそちらへ目をやると「もうすぐ栗が出るわね」と言った。

「母さんは、栗きんとんが好きだもんね。特に茶巾で絞ったのがいいんでしょ?」 

「メグミは、栗ごはんが好きなのよね。また作ってあげたかったなー」

「母さん、何を言っているのよ。作ってよ。私、鍋で炊き込みご飯って、上手くできないんだから」

メグミは困ったふうに眉を寄せサユリに笑い掛ける。

サユリは目を細めてふふふ……と笑い、ベッドサイドのテーブルを指して、引き出しを開けるよう言った。

メグミが言われた通りにすると、中に小瓶が五個くらいあった。緑色の粉がたっぷり入っているのが見て分かる。

「母さん、これ、抹茶じゃない? 父さんがあれだけ探しても、見つからなかったのに」

「ジリン様が私のために薬草を作って入る人を呼んでくださったのよ。話を聞いて、見本を持ってきてもらって、……それで、粉にもできるって。薬屋さんだもの」

メグミが小瓶の蓋を開けると、懐かしいお茶の香りが漂う。

お茶の葉にはいろいろ効能がある。薬草を育て薬を作る人ならという思いつきに、さすがのテツジにもたどり着けなかった。

病で弱ったサユリは、この屋敷で、国一番という医者と薬屋を知ったのだ。敏感に反応して抹茶を手に入れるところまで行けたのは、メグミのことを常に念頭に置いていたからに違いない。
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