異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「……寝ていたんじゃないの? 療養はどうしたのよ」

堪らなくなって、涙が一筋零れてしまった。急いで手の甲でごしごしと拭う。

サユリは自分の枕元に置いてある包みを、仰向けになったままで手に取ろうとした。

しかし、細くなった手首に力が入らなくて持ち上がらない。メグミは慌てて立ち上がって、それを取った。

「これ。見たいの?」

「私、少し疲れてしまって……。だからね、……それはメグミが預かって」

クリーム色の絹の大判ハンカチは、恐らくジリンが用意してくれたものだろう。家から持ってきた麻布とは違う。

開く前に分かった。包まれていたのは父親の位牌だ。

メグミはことさら明るい笑みを口元に湛えながらサユリに伝える。

「王城で置いておくのは難しいんだよ。だって、書いてあるのは絵に見えるから、誰かが落書きするかもしれないでしょ。母さんが持っているのが一番いいよ」

「……お願い。メグミ」

声が小さくなってゆく。息遣いがひどくゆっくりになっている気がした。
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