異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
サユリの目が少し細くなったとき、母親はメグミの後ろを視線で捉えた。

「コラン様……メグミを、よろしくお願い、します」

はっとしてメグミが振り返れば、そこにはコンラートが立っていた。

「どうして……」

「サユリは俺にとっても大事な人だ。俺自身を見てくれて菓子を作ってくれた。メグミのことが心配だろうから、安心させたくて来た」

低い声で返してきたコンラートに、振り返った状態で『でも』とか、『だって』とか、意味のないことを呟いてしまう。何を言いたいのか、自分でも分からなかった。

コンラートはメグミの肩を掴むと、見上げているサユリに向かって深く頷いた。

「サユリさん、メグミには俺が付いてる。ずっと守ってゆく。大丈夫だ」

「……良かった」

ふぅ……と安堵の息を零し、柔らかな微笑を浮かべたサユリは、眠るようにこの世を去っていった。
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