異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
やがてテツシバに着いた。エディはドアを開けてメグミの手を引いて下ろす。

「着いたよ。一人で入れる? 一緒にいようか?」

「一人でいます」

「そうか」

余計なことを言わないでいてくれるのはとても助かる。答える言葉など何も持っていないのだから。

自分の身が通り抜けられる分だけ戸を開けて中に入った。ふらふらと動いてダイニングまで行く。椅子に座って持ってきた位牌をテーブルの上に置いた。

「母さんの名前を書かないと」

単調な声で呟いたメグミは、テツジ名前の横に“志波さゆり”と書いた。そこで力尽きた彼女は、テーブルの上に伏せて目を閉じる。

――とうとう、この異世界で一人きりになってしまった。

気持ちも意識も酩酊したようになる。眠っているわけではないのに、動けない。
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