異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
それからどれほどの時間が過ぎたのだろう。カタリと音がして、メグミは机の上に伏せていた上半身をゆっくり起こした。
通りに面した戸のところに誰かが立っている。
「コンラート様……?」
「不用心だな。明かりを点けるぞ。それと今の俺はコランだ。国王が町中をふらついていると知られるのは拙い」
店の中にあるランタンに明かりを入れたコンラートは、それを持ってメグミの方へ来ると、テーブルの向かい側へ座る。
その席は、テツジが亡くなってからはサユリの場所だった。
ランタンはテーブルの端に置かれた。二人の影がゆらゆらと壁で躍る。
じっと見つめられている。
なにか言われるだろうか。慰めの言葉など聞きたくない。何も聞きたくない。
それなのに彼はいっそ冷たい声音でメグミに命じた。
「新年に入ってすぐの夜会で、和菓子を出せ」
「…………」
何を言われているのか、意識がついてゆかない。メグミの定まらない視線を受けながらコンラートは話を続けてゆく。
「他国からたくさんの王侯貴族が来る。国の威信も掛かっている。そこで小豆の宣伝がしたい。何が作れるのか、どういう菓子になるのか、考えろ。ベルガモットのいつものデザートと一緒に出すから、それに釣りあう菓子を作れ」
彼が言っている内容が遠くから近づいてくる。メグミの唇が動いて、覚束ない口調で掠れた声を出した。
「……新年の夜会で。和菓子を。ベルガモットさんも出す」
「そうだ。並べるぞ。メグは、よりたくさんの人に和菓子を味わってほしいのだろう?」
「……そうです」
テツジの言った言葉が脳裏を過ぎる。
『たくさんの人に菓子を食べてもらって、おいしいと言われるとな、すぅっと天にも昇る気持ちになれる。お茶を飲んでほっとひと息吐く時間のお供になれば、俺も頑張るかいがあるってもんだ』
彼女自身も望んでいた。
『食するばかりでなく、自分の手でこねたり蒸したりした和菓子が、人に望まれておいしいと言ってもらえたら、それだけで満たされる気がする』――と。
通りに面した戸のところに誰かが立っている。
「コンラート様……?」
「不用心だな。明かりを点けるぞ。それと今の俺はコランだ。国王が町中をふらついていると知られるのは拙い」
店の中にあるランタンに明かりを入れたコンラートは、それを持ってメグミの方へ来ると、テーブルの向かい側へ座る。
その席は、テツジが亡くなってからはサユリの場所だった。
ランタンはテーブルの端に置かれた。二人の影がゆらゆらと壁で躍る。
じっと見つめられている。
なにか言われるだろうか。慰めの言葉など聞きたくない。何も聞きたくない。
それなのに彼はいっそ冷たい声音でメグミに命じた。
「新年に入ってすぐの夜会で、和菓子を出せ」
「…………」
何を言われているのか、意識がついてゆかない。メグミの定まらない視線を受けながらコンラートは話を続けてゆく。
「他国からたくさんの王侯貴族が来る。国の威信も掛かっている。そこで小豆の宣伝がしたい。何が作れるのか、どういう菓子になるのか、考えろ。ベルガモットのいつものデザートと一緒に出すから、それに釣りあう菓子を作れ」
彼が言っている内容が遠くから近づいてくる。メグミの唇が動いて、覚束ない口調で掠れた声を出した。
「……新年の夜会で。和菓子を。ベルガモットさんも出す」
「そうだ。並べるぞ。メグは、よりたくさんの人に和菓子を味わってほしいのだろう?」
「……そうです」
テツジの言った言葉が脳裏を過ぎる。
『たくさんの人に菓子を食べてもらって、おいしいと言われるとな、すぅっと天にも昇る気持ちになれる。お茶を飲んでほっとひと息吐く時間のお供になれば、俺も頑張るかいがあるってもんだ』
彼女自身も望んでいた。
『食するばかりでなく、自分の手でこねたり蒸したりした和菓子が、人に望まれておいしいと言ってもらえたら、それだけで満たされる気がする』――と。