異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
扉を開けて出た部屋の外は、右左へ長く伸びる廊下だ。一方の壁は、北向きとはいえ中庭に面した窓が連なっているので明るい。二階だから、そこから見下す形で中庭を眺められる。

一方の壁には、メグミの部屋と同じドアが点々と配置されている。

これは、料理人の、いわばグループリーダーたちの一人部屋だった。メグミもその一員として、この廊下の部屋にいる。そこがまた妬まれる要因だったが、いまとなっては、他の者もなんとなく受け入れた格好だ。

メグミは廊下を走って突き当りまで行くと、そこの扉をノックした。ベルガモットの私室だ。部屋にいない可能性の方が高かったが、ノックに応えがあった。

「誰だ」

「メグミです。お話があってきました。少しだけお時間を取ってくださいませんか」

扉が開かれて、着替えに来たらしいベルガモットがいた。時間を考えれば、もう少し過ぎると、晩餐の用意に取りかからねばならないのだろう。

料理長ベルガモットの部屋はひときわ大きく、かなり上質な客間に近い。彼が料理長としてどれほど重きを置かれているか分かるような居室だった。

「で、何だ」

ソファがあっても座れとは言われない。立ったまま話すのは、それだけ時間がないせいもあれば、メグミが彼の部下だからだ。

背の高いベルガモットが腕を組んで上の方から凝視してくると、その威圧感に足がすくみそうだ。けれどメグミも、菓子のことなら引けない。

正面に立ち、ベルガモットの視線を受けとめて、メグミは新年の夜会で金箔を使いたいと申し出る。

ベルガモットは顎に手をやり考える様子を見せた。そして答える。

「簡単に手に入る物ではない。だがまぁ、新年の夜会は非常に重要な催しだからな。陛下がお許しを下されば出そう」

コンラートと面会できるかどうかは未知数だった。年の瀬近くになればなおさらのこと王として忙しいだろうから、目通りは難しい気がした。けれど日にちが迫っている。
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