異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
――寒い。

いつの間にかずいぶん冷えている。小さな薪のストーブがあり、そこに火が入っていたので凍えずに済んだようだ。アルマが気を利かせてくれたのだろう。あの下女中は、文句を言いつつ動くが、仕事に落としはない。

季節は秋から冬に入っている。三年目の冬だ。いままで通りなら、この先一気に寒くなって、年の瀬には雪が降ることもある。

悩みつつ眠ろうとした初冬の夜。こんこんと部屋の扉が叩かれる。

驚いて飛び起きた。

――こんな時間に、誰?

ドアのところまで行き、小さな声で「誰ですか?」と訊くと。

「コランだ。なにか話があるらしいな。来てやったぞ。誰かに見つかる前に開けてくれ」

叫んでしまうかと思った。急いで鍵を外してドアを開けると、彼は滑るようにして中に入る。メグミは一応廊下に誰もいないかどうかを確かめるために、顔を出して右左を見やった。

しんと静まる長い廊下には誰もいなかったので、ほっとする。
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