異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
コンラートに、机とのセットになるこの部屋唯一の、簡素な椅子を勧める。彼女は対面のベッド端に腰を掛けた。

ストーブは消してしまったのでストールを肩から掛ける。コンラートは、厚手の上着を羽織っていた。いつもの煌びやかな服装ではないから、コランだと言われて納得できた。

「どうされたんです。大体、王城の中ならコンラート様ではありませんか」

「それもそうか。内緒で王都へ抜け出す気分だった。……メグミが悩んでいるとベルガモットが言っていたんだ。正式な面会は順番待ちになってしまうから、こちらから訊きに来た」

ベルガモットは賓客に出すメニューのことで、侍従長と一緒にコンラートと打ち合わせをすることもあると聞いている。今夜は、そういう日だったのかもしれない。

――ベルガモットさん。ありがとうございます。

厳しい面ばかりに接するが、料理長は自分の料理に誇りを持っているからこそ、他の者に厳しくなる。当然、メグミに対しても甘くなることはない。

それでもコンラートに取り次いでくれたのかと思うと感謝の念が込み上げた。

「明日にでも呼び出してくださればよかったのに」

「メグミが困っているかもしれないだろう? ……サユリさんに守ると約束したし、俺にできる最短時間でここへ来たらこの時間になったんだ」

「そうですか……」

何とも言えない。サユリとの約束だからと理由がはっきりしているなら、これ以上『なぜ』と訊く必要があるだろうか。『……にぶっ』とアルマの声が聞こえた気がしたが、察しが悪いのは認めるからそっとしておいてほしい。

コンラートと話をしたかったので、ちょうど良かった。
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