異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミは唇を噛んで一呼吸をしてから、微かに笑う。

「ありがとうございます。使わせていただきます。すごく嬉しいです」

するとコンラートはわずかに身を寄せて、彼女の耳元近くで囁く。

「メグミはドレスや指輪よりも、小豆の方がよほど嬉しいってことか」

寒さで朦朧としていたのかもしれない。反射的に返す。

「ドレスや指輪ですか? 指輪は手先が重くなりますし、凹凸は邪魔になります。調理場でドレスを着ていたら、裾に火が移ってしまいそうですね」

コンラートが渋い表情をしたので、メグミは寒さで震えながらも笑った。

――いつも、私を助けて立ち上がらせてくださる。

膝を突いていたコンラートは一息で立つと、その動きを目で追ったメグミに手を伸ばす。無意識に腕を動かしてその手の上に自分のそれを載せると、ぐいっと引っ張られて彼女も立った。

コンラートは自分が羽織っていた黒いコートをメグミの肩に掛ける。

「ダメです。こんなこと」

「俺が好きでやっている。誰にも文句は言わせない。……誰も言わないだろうしな」

メグミがはっとして周囲を見回せば、窓という窓から城内の者たちが覗いていた。彼女は頬を上気させてぽかんと口を開けてしまう。

――どうしよう、どうしよう、こんな……。

恥ずかしくて隠れたくなる。「メグミ。すぐに部屋へ戻って手先を温めろ。身体も温めるんだ。後で医師を向かわせるから、待っていろよ」

袋を抱いているような格好で立っているから手先を見ることはできないが、じんじんと痺れていた。いつの間にか現れた衛兵が、メグミを誘導してゆく。

コンラートは彼女とは反対側から屋内へ入った。
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