異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「陛下?」

「二人でいるときは、今後コランと呼んでくれ。メグに陛下と言われるのは、あまり好きじゃない」

「ですが、誰が聞いているかもしれないのに」

彼は不敵な笑顔を彼女に見せてくる。

「黒獣王に文句を言うやつはいない」

それでいいのかと考えてしまう。

横長に建てられている温室の中央あたりで、丸く開けた場所が造ってあった。休憩のためなのか、隅にベンチが一つある。

「暑いなら、マントは脱ぐか? 外へ出るときに、また羽織る必要があるが」

「そうですね。では」

するりと脱げるのはマントの良い点だ。彼女はそれを自分でベンチの背に掛けようとしたが、コンラートが横から持って彼が掛けた。そして彼女をしみじみと眺める。

メグミは少々恥ずかしくて目線を外すと地面を見た。

「元からメグは美しいと思っていたが、ドレス姿もまた絶品だな。ジリン公爵に打診したかいがあった。目の肥やしだ。特に髪が、そのあたりでは見ないような黒で、真っ直ぐで、エキゾチックだぞ」

こういうふうに褒めるのは女性に対する礼儀だろうが、メグミには不要だ。
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