異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「コラン様。ご用は何でしょうか」

「そうだな。まずは踊るか」

「え? ダンスはできません」

はっはは……と笑い声を上げたコンラートは、メグミの手を取って適度な形に組ませると、ワルツを踊り始める。曲はなくても、リードが上手ければなんとなく踊れるのがワルツだ。

適当に回されていると、コンラートはそれで満足したのか、最後にベンチへ誘導してメグミに座るよう示した。軽いドレスは彼女が上手く捌けなくてもきちんと収まってくれる。

並んで腰を掛け、円形の場所とその向こうを囲う温室の植物を眺める。

「動くと温かくなるだろう? メグならリードすれば踊れると思ったが、当たりだったな。元々足運びがとても綺麗だ」

「そうですか? それで、ご用は?」

コンラートは深くため息を吐く。

「こういう状況で、“ご用”はないだろう。もっと他に訊きたいことはないのか」

「えーっと。そうだ。栗羊羹はいかがでしたか?」

乗り出すようにして、横に座るコンラートに身を寄せる。一瞬目を見開いて丸くした彼は、諦めたようにメグミへ視線を向けた。
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