異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
それから一か月過ぎる。

メグミは城内の料理人たちにあんこの作り方を伝授した。もちろん、そういうものは好きではありませんと言う者もいた。好きでなければ仕方がないとその者は外れてもらう。それでも大層な数の人員が残ったので、教えがいがあった。

小豆であんこを作るには、手間暇かける方法もあれば、鍋一つで作ってしまうやり方もある。自分がもっともやりやすい方法でいいと思う。

『自分の味ができれば、その方法を続けてゆくの。そうすることで同じあんこでも独自性が生まれるから』

和菓子をいきなり伝えようとしても上手くいかない場合が多い。だから、白玉粉を練って、茹でて白玉を作り、そこにあんこを混ぜて食べることや、もち粉を練って蒸してからあんこを付けたりという実演をして見せた。もち粉なら砂糖醤油もありだ。

大通りの店屋へ行く人が増えたらしいので、それなりに成功しているのだろう。

小豆は豆屋が売り始めたと聞いた。コンラートの方も、少量しか残っていないらしい。惜しい感じだが、今年の五月に植えれば秋には収穫できる。

コンラートには、王都で春祭りがあるから、そこで町の者たちにもあんこを広めてほしいと言われる。

『あんこ作りの実演は、お前が教えた王城の料理人たちにやらせよう。メグミはとにかく、簡単で美味しく食べられるものを出してくれ』

『はい。考えます』

春祭りまでは、まだ二か月近くある。考えよう。

――少しでもあなたの役に立てるなら。

コンラートのあの精悍な顔を思い浮かべると、ドキドキと鼓動が早くなる。それは誰にも言っていない。身分違いだけはどう考えても超えられない壁だったからだ。
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