異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「来い。渡したいものがある」
コンラートはメグミの手を引いて歩き出す。国王相手なので、メグミも黙って連れて行かれた。
廊下では様々な視線が纏わりついたが、コンラートが一睨みするとそそくさとその場から去ってゆく。そういう者ばかりだ。ジリンの姿が視界の端をちらりと掠めたが、公爵はなにも言わずにコンラートとメグミの奇妙な道行を眺めていた。
やがて彼が一人で食事をする部屋に着く。中に入って扉が閉められると、二人の他は誰もいない状態になる。奥には食事のためのテーブルがあり、手前に寛ぎ用のソファのセットが置かれている。
彼は三人掛けのソファにメグミを連れてゆく。
「メグ。これはお前のものではないか?」
言われて座面を見れば布の塊があった。以前、毎日のように見ていたそれは、絣の着物だ。濃い紺色と、特徴的な柄ですぐに分かる。帯もあれば帯〆も座面の上に載せられていた。
メグミはコンラートの手を放し、小走りで近寄ると座面の前で膝を床に落とす。怖いような気持ちで手を伸ばして、着物に触れた。途端に彼女は布を掴んで両手を高く上げると、畳んであったものが、袖と見頃と襟とが分かるほど広がる。
「母さんの着物……! 絶対そう。久留米絣で名古屋帯だもの。柄だって、間違いない」
メグミはそれをぐっと抱きしめると後ろを振り返る。
「どうしてこれを? これは母さんのものなんですっ」
コンラートはメグミの手を引いて歩き出す。国王相手なので、メグミも黙って連れて行かれた。
廊下では様々な視線が纏わりついたが、コンラートが一睨みするとそそくさとその場から去ってゆく。そういう者ばかりだ。ジリンの姿が視界の端をちらりと掠めたが、公爵はなにも言わずにコンラートとメグミの奇妙な道行を眺めていた。
やがて彼が一人で食事をする部屋に着く。中に入って扉が閉められると、二人の他は誰もいない状態になる。奥には食事のためのテーブルがあり、手前に寛ぎ用のソファのセットが置かれている。
彼は三人掛けのソファにメグミを連れてゆく。
「メグ。これはお前のものではないか?」
言われて座面を見れば布の塊があった。以前、毎日のように見ていたそれは、絣の着物だ。濃い紺色と、特徴的な柄ですぐに分かる。帯もあれば帯〆も座面の上に載せられていた。
メグミはコンラートの手を放し、小走りで近寄ると座面の前で膝を床に落とす。怖いような気持ちで手を伸ばして、着物に触れた。途端に彼女は布を掴んで両手を高く上げると、畳んであったものが、袖と見頃と襟とが分かるほど広がる。
「母さんの着物……! 絶対そう。久留米絣で名古屋帯だもの。柄だって、間違いない」
メグミはそれをぐっと抱きしめると後ろを振り返る。
「どうしてこれを? これは母さんのものなんですっ」