異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
泣いて濡れたメグミの頬を、コンラートが頭から下した手でそっと包んだ。
「店主が古い台帳を見せてくれたが、そこに“テツシバ”とあった。奇妙な織りの、どう着るのか分からない服を持っていたテツシバは、俺の調査対象になった。見張るよう言っておいたエディが、みたらしとやらをうまいうまいと言うものだから、たまらずに食いに行ったんだ」
初めてコンラートがテツシバへ来たときのことが思い出される。
テツジを失ったメグミたちは寝込んでしまっていた。そこへ『みたらしが食いたい』とコンラートが来た。
「……とうにタペストリーにでもなっていると思っていました」
「珍しいというのはそれだけで価値を生み出せる。他で同じような布ができないかと、織りを調べるのに時間がかかった。だから台帳を見るのもずっとあとになってしまったんだ。もっと早く知っていたら、おまえに渡すのも早まったのにな」
メグミは首を横に振る。
こうして手元に戻ったことがすでに奇跡のようなものだ。遅くなったというより、メグミにしてみれば預かってもらっていたと同じだ。
彼女は絨毯の上で乱してしまった着物を畳み始める。コンラートは興味深そうにそれを眺めていた。
「どうやって着るんだ? そのうち着て見せてくれ」
「はい。そのうち……」
テツシバのことが頭を過ぎる。サユリはこの着物を着て店に出ていた。いつもだ。
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